女性のスペース結 「結」のサポート

女性のスペース結

NPO法人 女性のスペース「結」は、女性からのさまざま相談を受け、サポートしています。


DV被害者支援アドボケートガイドライン(試案)

※無断掲載禁止。ご使用の際は当団体にご一報ください。※

NPO法人 女性のスペース結  2017作成 2023改編
※ さまざまな理由で、権利の表明が困難である⼈に代わり、その権利を守り、権利の実現を⽀援する機能を「アドボカシー」または「アドボケート」、その⽀援者のことを「アドボケーター」といいます。日本語では、権利擁護、代理支援、同行支援とも言います。



私たちは1989年より、女性のための相談活動やフェミニストカウンセリングを始めた団体です。「フェミニストセラピィ結」は、2001年に「女性のスペース結」と改称、2003年にNPO法人格を取得、2018年にNPO法人格をしました。地域の中でDVの根絶を目指し、DV防止法の施行を機に、主な活動をDV被害者支援としました。それ以来一貫して、女性相談及びDV相談を受け、特にDV被害者への切れ目のない支援を目指し、カウンセリング、シェルター・ステップハウス・シェアハウス運営、アドボケート(同行支援)、心のケアなどを行っています。女性や子どもの人権が守られ、誰もが自分らしく生きられる社会にしていくことを目的としています。

DV被害にあった⼥性の多くは、⼼⾝ともに傷つけられており、本来のその⼈の⼒が出しにくくなっています。そのためアドボケーターはそうした⼥性にとっても⾮常に重要な存在です。時にはその人の立場を代弁する、問題が生じた場合に適切な対処を行うなどのサポートをします。DV被害者の方が必要なサービスを利用できるよう、行政府やサービス提供機関にはたらきかけることもあります。また、サービス利用資格があるにもかかわらず、サービス決定機関からサービス不足や、理不尽な理由によってその権利を否定されているような場合、それを保障するよう行政窓口に交渉することもあります。

米国では援助体制や公的、法的アドボケートなど幅広く取り組まれています。日本では「アドボケート」と同じように「同行支援」という言葉が使われていますが、これは「アドボケート」の一形態を言い、寄り添い、付き添い的な意味合いが強いと言えます。

アドボケーターにどこまでの役割を求めるのかは、相談者によって異なりますが、私たちは一定のガイドラインを策定することで、相談者に二次被害を与えず、また同行支援者も受傷することのないようにしたいと考えました。

当団体の各種会議での議論や、相談事例のケース検討を踏まえ、最低限盛り込むべき事項及び盛り込むことが望ましい事項についてまとめました。
あくまでも基本的なガイドラインとしてあり、今後改良改善していくことが望まれます。

1.どんな時にアドボケートが必要か

離婚調停を起こしたい、離婚調停を申し出たい、保護命令を申請したい、法テラス・弁護士事務所に相談にいきたい、転居先を探したい、健康保険の手続きをしたい、病院に行きたい、警察に行きたい、子供の学校や保育園の手続きをしたい、年金事務所に行きたい

2.アドボケーターの役割

・当事者の現状を正確に把握するために、傾聴して整理すること
相談やインテークの中で、事前情報を収集し、適切なアドボケートができるように計画し、シュミレーションを行う
あくまでもアドボケートに必要な情報のみで、当事者の抱える悩みや相談内容の全部を知る必要はない、個人情報に立ち入りすぎない

・当事者の最善の利益に向けて行動すること
当事者が望む状態を目指して、支援する
「それは無理かもしれない」とアドボケーターが判断するのではなく、行政窓口等での説明を一緒に聞き、当事者に理解してもらう

・当事者の自己決定を尊重すること
アドボケーターの価値観で判断しない
「私ならこうする」「普通はこうする」は禁物

・当事者に対して正確な情報を提供すること
分からない時は調べる、尋ねる、問い合わせをする
何の根拠もなく安易に『大丈夫』ということは避ける

・当事者に対して素直な助言をすること
上から目線で指示しない
当事者とアドボケーターは同じ位置にいる

・当事者の安全確保、アドボケーターの安全確保を優先する
アドボケート時は、公共交通機関を使うことも多く、またオープンスペースにいることも考えられるので、アドボケートの内容を話すことは、当事者の個人情報を漏えいしてしまうことにもつながる
当事者もアドボケーターも、周囲に細心の注意を払う必要がある
3.アドボケートの流れ

①  相談者からアドボケートの依頼があった場合、相談者氏名、連絡先(連絡しても大丈夫な日時)、相談内容、アドボケート行先と目的、アドボケート希望日時、子供同伴の有無等を聞き取り、アドボケート受付票に記入し、コーディネーターに連絡をする

② 後日、コーディネーターから相談者に直接連絡を入れる

③ コーディネーターはアドボケートの再確認を行い、登録アドボケーターとの日程調整を行うが、初回は特に複数で同行したい

④  初回の時はできる限り、コーディネーターとアドボケーターと一緒に事前にインテーク面接を行うことを基本とする

⑤  面接では、アドボケートの目的、日時、場所、利用交通機関、注意事項等を確認し合う

⑥ アドボケーターは当事者が書いたものや、書類のコピー等を預からない
アドボケートに必要な書類であれば、情報は口頭で伺うが、スタッフが書面を保持することが後々問題になることもある
*これは相談の場においても同様で、書類等を一時的に預かったとしても、必ず当事者
に返却する

⑦  アドボケート当日、当事者と会った時に、目的、私たちの役割、本日の流れ、終了時間
の目安等、再度「約束事」の確認をする
基本的に交通費は各自が持つ
私用の車両は使わず、できるだけ公共交通機関を利用する

⑧  最大の注意と細心の注意を払いつつ、アドボケートを行う
裁判所や役所の中であっても、安全ではないことを前提とする
入口、出口、パーキング、トイレ、待合室等の確認をする

⑨  当日は当事者も興奮状態にあることも考えられるが、アドボケーターは何があっても冷
静に受け止め、対応する
例えば、離婚調停時、相手方から思いもよらない衝撃的なことを言われた場合、一緒に
興奮してしまうのではなく、「そういうこともあるかもしれない」「残念だけど、そん
ふうに言われてしまうんだよね」「次回は落ち着いて自分の気持ちを話してみましょうか」と言葉がけをする

⑩  当事者にもクールダウンしてもらえるよう、引水や深い呼吸を促し、アドボケート先で
あまり深い話にならないように心がける
当事者が悩んでしまったら、「正直にわかりませんと答えてもよいのでは?」と言う
アドボケーターは同行支援者であり、相談員ではない
当事者の気持ちには寄り添うが、相談内容に深く立ち入ることはしない
そうでないと、当事者も混乱する

⑪  アドボケート終了後に報告書を記入するので、全体の流れを記憶しておくか、簡単に
メモを取る

⑫  当日のアドボケートが終了したら、すみやかに、当事者と会った場所か最寄りの駅まで送り届けて終了すること、長引かせない
終了後は、当事者も気持ちが高揚しており、解放された気分で、思いのたけを話したい
状態となるが、(当事者の安全、アドボケーターの安全のため)にも時間と場所を切り
上げて、立ち去る勇気が必要
当事者にしてみれば、お礼の意味もあり、「ちょっとお茶でもいかがですか」と誘って
くれることもあるが、再会の約束をして終了する
当事者の自立への道程は長く、1回のアドボケートで終了してしまうことはあまりない
必要であれば、また改めて相談員と面接を行うこととする

⑬  例えば、離婚調停で相手方が同じ場所にいる場合は、公共交通機関でなくても、タクシ
-を利用して安全な場所まで移動する
相手方の追跡や遭遇の可能性も視野に入れて、慎重に行動することが重要

⑭  アドボケーターはコーディネーターに連絡し、その日の報告を行うとともに、アドボケート報告書を記入する

⑮ うまくいかなかったとしても落ち込まない、後日他スタッフと振り返りを行い、失敗を共有し次につなげていく

*NPO法人女性のスペース結は、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社の、NPO活動総合保険に加入しています。
内容は、障害保険(レクリエーション・施設入場者等団体契約用)及び賠償責任保険で、被保険者は結の活動員、ボランティアで、死亡・後遺障害・入院・通院が補償されています。
あくまでも最低限の補償ですが、何かあった時、万一の時のために備えています。

4. 想定されるアドボケート先

・家庭裁判所へ離婚調停、離婚裁判付添
・地方裁判所ヘ保護命令申し出
・警察署生活安全課へ被害届申し出
・配偶者暴力相談支援センターへ相談付添
・市役所生活福祉課へ生活保護申請
・市役所子育て支援課へ児童扶養手当等申請
・市役所保育課へ子どもの保育所申請
・病院ヘけがの診断治療等
・公的シェルターへ緊急一時保護付添
・弁護士事務所ヘ法律相談付添
・法テラスへ法律相談付添
・教育委員会へ子どもの転校等手続き
・入国管理事務所へ外国籍の方の在留資格更新手続き
・保健所保健センターへ健康相談
・地域包括支援センターへ高齢者相談
・教育センターへ子どもの教育相談
・リーガルサポートセンターへ相談付添
・子ども家庭支援センターへ子どもの養育相談
・児童相談所へ子どもの一時保護付添
・年金事務所へ国民年金減免申請
・不動産店へ転宅先探し
・携帯電話ショップへ手続き
・ハローワークへ仕事探し
・犯罪被害者支援相談センターへ相談付添
・学生相談室へセクハラ相談付添
・女性の人権ホットラインへ人権侵害相談付添
・労働基準監督署へパワハラ相談付添
・福祉事務所へ福祉の相談付添

5.よりよいアドボケーターになるために

DV被害者支援の基本的な勉強をしておくことは大事です。
DV防止法における被害者支援、身の安全を図るための支援、緊急時の安全確保と保護命
令、個人情報保護、自立のための支援(医療・年金・児童・住宅・生活保護等)、外国籍の
方の在留資格制度、離婚の手続き、各市区町村の男女共同参画行政、その他の制度等々あり
ます。

また、当事者が必ずしも皆、DV被害者とは限らないのですが、DV被害を受けている人の心
の傷、思い、心情を理解することはよりよいアドボケートをするにあたり、たいへん重要で
す。当事者の方が、暴力を受けたパートナーを怖れる気持ちは測りしれません。じっと話を
聞いてくれる人、そっと寄り添ってくれる人がいるだけでも安心できるかもしれません。

しかしながら、私たちが当事者の方を全て理解することはできません。当事者の方が望む、
ほんのわずかなお手伝いしかできないのです。そう、できることはほんの小さなことだけれ
ども、その時間はお互いにとってかけがえのない貴重なひとときです。アドボケーターが当
事者の方からエンパワーされることもあります。

個人に起きている問題は、社会の問題とも言います。その方の問題として終わらせるのでは
なく、どこかで私たちの問題だと引き付けて考えるようにすると、アドボケーターとしてア
ドボケートしながら、弱者への配慮のなさ、人権意識の低さ、行政サービス提供の不足、さまざまな場面での理不尽さという壁に当たり、愕然とします。その怒りを何とか力に転換して、誰もがいきいきと生きていける社会を目指していけると良いのかもしれません。

アドボケートの中で学ぶことはたくさんあります。それらを仲間と共有しながら、より有効な結スタイルを作っていきませんか。